犬飼ドクター
突然ですが、クリニックの開業と聞いてどんなことを思い浮かべますか?
悩めるドクター
ほとんどのドクターが開業に対して、そのようなイメージを持たれているのではないでしょうか。
医師で勤務医以外の道といえば開業医しかないと思われがちですが、いま大いに注目されている独立方法が実はあるのです。
悩めるドクター
クリニックの開業以外の独立方法とは、医療ベンチャーの起業です!
全く医療と関係のない分野ではなく、医師としてこれまで培ってきたノウハウやネットワークを生かして起業しよう!ということです。
今回は、医療ベンチャーの起業について、クリニック開業と比較しながら深く掘り下げていきます。
クリニックの開業とは?
まず、医療ベンチャーの起業について解説する前に、クリニックの開業とは何か簡単に触れておきましょう。
クリニック開業は、勤務医の延長線上にあって何となく儲かりそう!と安易に考えていませんか?しかし、クリニック開業自体それなりにハードで、成功までの道のりにはさまざまな落とし穴もあります。
犬飼ドクター
私自身、2つのクリニックを開業してきましたが本当に大変でした!
クリニック開業の手順と手続き
クリニック開業のためにはさまざまな準備が必要ですが、大きく分けると以下のようなものがあります。
業務 | 内容 |
---|---|
経営理念や診療方針の策定 | 開業の目的、めざすべき方向性を示す指針の決定 |
開業地の選定 | 立地と診療圏調査・来性の予測、継承物件検討など |
事業計画の策定 | 投資金額の決定、収支の予測、損益計算書・キャッシュフロー計算書の作成 |
資金調達 | 調達方法調査・調達先の選定、金融機関への相談・面談など |
不動産・物件の選定 | 戸建てまたはテナントを選択 |
内装設計 | 建物の工事、設計・内装業者の選定、保健所への事前確認など |
医療機器の選定 | 医療機器の選定・発注、納入スケジュールの調整、操作指導 |
リスクへの対策 | 開業医や従業員の病気やケガなどに備えた保険への加入など |
人事労務・求人 | 人員計画の策定、就業時間・時給等の検討、各種規定の作成、求人広告、面接・採用、雇用契約 |
宣伝広告 | リーフレットやチラシなどの作成、ホームページの作成、SEO対策、野立て看板の設置など |
会計・税務 | 税理士・公認会計士などの選定、会計処理 |
行政手続 | 開設届、保険医療機関指定申請、各種公費申請、消防関連 |
悩めるドクター
犬飼ドクター
クリニック開業のタイミングは?
医師が開業するタイミングは、医師としての自信がつく40代前後が理想といわれています。
悩めるドクター
日本医師会の調査によると、新規開業の場合、開業した年齢は平均41.3歳で、あながち理想と実態がかけ離れていることはないようです。加えて、近年ではクリニック開業に意欲を示す医師の年齢層は拡大傾向にあります。30代前半で開業を目指す医師もいれば、50代後半に開業を決意する医師もいるそうです。
しかし、クリニックを開くのに有利な土地は年々減少しています。そのため、やはり開業するならば、医師として経験値や資金力がある程度ついてきた40代前半までには行動した方がよいでしょう。
クリニック開業メリット・デメリット
開業にはもちろんメリットもあればデメリットもあります。主なメリット・デメリットは以下のようなものがあげられます。
- 開業のメリット
• 自分のペースで自由に仕事ができる(ワークライフバランスの実現が可能)
• 医局との人間関係で悩まされない
• 収入が増える
• 自分が理想とする医療を追求できる
• 自分の方針に沿う人材を採用できる
• ワークライフバランスの実現が可能 - 開業のデメリット
• 開業するまでの手続きが煩雑
• 従業員の雇用管理や集患、確定申告など業務が増える
• 医療事故などが発生した場合は、経営者として責任を問われる
• 開業時の借金返済や運転資金調達が大変
• 収入の不安定化
勤務医とクリニック開業医の年収の違い
勤務医と開業医の平均年収の違いは以下の通りです。
勤務医 | 年収:約1,491万円 |
---|---|
開業医 | 年収:約2,763万円 |
厚生労働省 中央社会保険医療協議会 第22回医療経済実態調査(医療機関等調査)-令和元年実施
ただし、開業医の場合は、個人事業主となるため社会保険料や税金などの支出や可処分所得(健康保険や年金、税金を引いた自身が自由に使える金額)も考慮する必要があります。
クリニック開業で失敗する人は?
開業で失敗する人とはどのような人でしょうか。以下の項目にあてはまる人は失敗のリスクが大きくなるので要注意です。
●クリニックの運営方針を明確にせず開業する人
経営方針がきちんとしなければ、クリニックの指針が定まず、方向性を見失ってしまいます。目標を達成するためには何事もゴールから逆算して考えることが何よりも大切です。
●経営について継続的に学び続けられない人
開業医になると医療だけでなく経営に関しても責任を負うことが求められます。ありとあらゆる場面で、経営判断を迫られるため経営について継続的に学び続ける必要があります。
●目先のコストばかり意識する人
人件費、家賃など現在かかる費用のことばかりを意識する方がいます。目先の利益ばかりを追求するのでなく、どれだけクリニックの成長のために先行投資できるかが事業拡大や将来の利益に繋がります。
●他業種とのコミュニケーションが苦手な人
開業医になると行政関係者やケアマネジャー、介護士、高齢者住宅の経営者など、地域の中で活動する方々との連携が必要となるでしょう。そのため、必然的にある程度のコミュニケーションスキルが求められます。
●完璧主義の人
あまりにも完璧主義すぎると、考え方が凝り固まり行き詰ってしまいます。職場の雰囲気も悪くなりかねません。多少のことは受け入れる寛容さが必要です。
●メーカーの営業に言いなりになってしまう人
営業の言いなりでは、使用感や費用面など、あらゆる面で損をする可能性があります。実際に試したり、複数の見積りをとったりするなどの対策が必要です。
クリニックの開業医は時代遅れ?
勤務医はもちろんのこと、開業医ですら時代遅れとなりつつあります。なぜなら、今後人口減少により保険診療は衰退し、医師の供給数が過剰になることが予測されているからです。
悩めるドクター
在宅医療など国が推奨している診療点数が高い分野でも、需給のバランスが崩れたタイミングで診療報酬の改定が行われ、点数が下げられます。したがって、今後勤務医や開業医など保険診療をメインでやっている医師はさらに苦しい時代に突入していくといっても過言ではないでしょう。
犬飼ドクター
悩めるドクター
犬飼ドクター
医師の起業とは?
犬飼ドクター
悩めるドクター
でも結局、自分の専門科に付随したビジネスしかできないのではないですか?
最初は、付随する事業で構いません!私もそうでした。
では、医療ベンチャーの起業についてひとつひとつ丁寧に解説していきます。
医師の起業の手順と手続き
一言に起業といっても、何から始めればいいかわからない方がほとんどではないでしょうか。ここでは、一般的な起業の流れについて簡単に説明いたします。
0.人生のゴール設定
起業をするときにはまず、事業で成功した自分を想像してみましょう。
その時、自分は何をしているのか?周りにとってどんな存在か?価値観は何を大切にしているのか?など「未来の自分はどうなっていたいか」について明確なビジョンを持つことは目標を達成するためにとても重要な役割を果たしてくれます。これは挫折しそうになった時にモチベーションを高めることにも役立ちますよ。
犬飼ドクター
1.ビジネスモデルの決定
起業して何をするか決めるとき、自分の頭の中で漠然と考えていることを具体化する必要があります。具体的には、顧客ニーズの顕在化と同業他社分析を行います。顧客ニーズを探るには「身近な困りごと」と「世の中の困りごと」に目を向けるとよいでしょう。
犬飼ドクター
2.資金を調達する
何をするかが決まったら、次は資金を調達します。もちろん、自己資本だけでやることもありますが、代表的な資金調達の方法としては、下記のようなものがあります。
● 銀行融資
→都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合から融資を受ける方法です。金利を抑えて融資を受けたい方におすすめです。●日本政策金融公庫
→少額の支援で、起業家を応援してくれる金融機関です。審査が比較的緩く、初心者におすすめです。
●自治体の起業支援制度
→各自治体では起業家支援制度を設けています。返済義務のない補助金や助成金の活用ができます。
● クラウドファンディング
→インターネットを活用し、不特定多数から出資金を集める方法です。資金集めの段階で商品やサービスをPRできるので、マーケティングもしながら資金調達したい方向けです。
● ベンチャー・キャピタル
→上場を視野に入れている方におすすめですが、難易度は高めです。事業拡大を目指すタイミングの方が検討してもらえる可能性があります。
3.起業方法を選び、手続きをする
起業には個人事業主、株式会社・合同会社設立、フランチャイズ、M&Aなど様々な方法があり、手続き方法もさまざまです。自分のビジネスプランに合った起業方法を選択することが大切です。また、事業内容によっては許可・認可・届出・認証・登録・指定などの手続きが必要になるため、あらかじめ確認しておきましょう。
4.実際に事業を始める
事業を始める時は、綿密に計画して慎重になることも大事ですが、スピーディーな行動力が肝です。事前にどれだけ準備をしていても、いざ起業してみると想定外の出来事は必ず起きます。未来のことをあれこれ心配して動けなくなってしまうようであれば起業は向いていないでしょう。常に、見切り発車でも動き出す勇気が必要です。
犬飼ドクター
6割ぐらいの完成度で動き出せる人間でないとビジネスはうまくいきませんし、完璧主義者は絶対に破綻しますよ!
医師が起業に向いている理由とは?
医師は、一般の方々に比べて起業にとても向いています。理由はたくさんありますが、今回はその中から3つに厳選して説明します。
1.医療ベンチャーを立ち上げることが安易である
医療ベンチャーを立ち上げることは実は簡単なのです。なぜなら、医療業界は閉鎖的で、他業界での常識が医療業界では非常識であることがほとんどだからです。
医療業界というのは縦社会であり、経歴が長い看護師よりも浅い医師の方が、決定権が強いなんてことはよくある話ですよね。それだけ医師免許の効力は強く、医師にとって圧倒的に有利に働くのです。また、医療業界はほかのビジネスに比べて、進歩がとても遅いです。ほかのビジネスでは当たり前になっている仕組みが医療業界では知られていないなんてことも。ゆえに、その医療業界では浸透していない仕組みと医療を掛け合わせるだけで、簡単に起業が可能です。また、クリニック開業と違い、時代の流れによって需要がなくなれば古いビジネスは辞めて、新しいビジネスに移ることもできますよ。
犬飼ドクター
2.医師が代表であるという信用力がある
医療ベンチャーにおいて代表が医師であるということもとても優位に働きます。自分がトップでなくてもいいのでは?と思われるかもしれませんが、絶対に代表が医師の方が良いです。なぜなら、医療業界は閉鎖的であるため、代表が医師であるというだけで話を聞いてくれることが多々あります。逆に、医療ベンチャーの代表が医師でないと「一般人に何が分かるんだ!」と門前払いを食らうこともしばしば。また、法律の関係で医師がいないとできないビジネスもあるため、代表として医療ベンチャーを起業するのが無難でしょう。
3.資金面で困ることが少ない
医師は起業の資金面で苦労することは一般の方々に比べると少ないでしょう。理由は2つあります。
1つ目は、資金調達がとても楽であるということです。起業時にまずぶつかる壁が資金調達方法です。100万円しか先行投資できない人と1億先行投資できる人では、ビジネスの規模や雇える従業員の数も変わってきます。医師であれば、たとえ手元資金が十分になかったとしても、数千万の創業融資を引くことが簡単にできます。なぜなら、医師免許自体に信用力があり、銀行からの評価がとても高いためです。
2つ目は、万が一、ビジネスが破綻しても復活しやすいということです。よく「借金は悪」といいますが、本当にそうなのでしょうか。もし、融資を引いてうまくいかなかったとしても実はどうってことないのです。なぜならば医師免許があるのですから!医師は弁護士や税理士などと違い、たとえ自己破産しても免許のはく奪されません。医師でありさえすれば、バイトをがむしゃらにやったり、勤務医として再スタートしたりなどをして、その後の人生何回でも復活できるチャンスがあります。復活したら、また新しいビジネスもできますよ。
犬飼ドクター
医師の起業事例
まだまだ医師の中で浸透していない医療ベンチャーの起業ですが、医師の起業家で大きな成功を収めている例は珍しくありません。みなさんも耳にしたことがある医療ベンチャーの社長が実は医師だった!なんてこともよくある話です。ここでは、起業して成功した医師を紹介します。
1.豊田剛一郎「株式会社メドレー」(2009年創業)
株式会社メドレーは脳神経外科医の豊田医師が立ち上げた企業です。豊田医師は、マッキンゼーに入社した経験をもち、そのノウハウを生かしてオンライン診療システム「クリニクス」や医師が作るオンライン医療事典「MEDLEY」事業などを手掛けています。テクノロジーを活用した事業やプロジェクトを通じて「納得できる医療」の実現を目指しています。
2.石見陽「株式会社メドピア」(2004年創業)
株式会社メドピアは、循環器内科医の石見医師が立ち上げた企業です。石見医師は、大学院時代に医師向け求人サイトを束ねるポータルサイトを立ち上げた経験があり、現在は国内最大級の医師専用コミュニティサイト「MedPeer」を運営しています。医師の知見を共有し合う場を提供することで、医師の疑問を解決し、医療の質的向上を目指しています。
3. 山本雄士「株式会社ミナケア」(2011年創業)
株式会社ミナケアは、循環器内科医の山本医師が立ち上げた企業です。健康保険組合などに蓄積されているさまざまなデータを解析し、病気になるのを待たない積極的な健康管理を提案・評価する「データヘルス」支援をしています。病気の予防・管理によって健康に生きる「投資型」医療の実現を目指しています。
まとめ
いかがでしたか。今回は医療ベンチャー起業について、クリニック開業と比較しながら解説しました。これからの時代は、勤務医や開業医だからといって安泰とは限りません。人口減少によって医師余りの時代が来る日も迫ってきています。そんな中、勤務医・開業医以外の選択を考えることは自然な流れでもあるといえるでしょう。医師であれば、医療ベンチャーの起業がしやすく、万が一失敗しても復活が可能です。まだ起業している医師が少ないからこそ、1歩先2歩先を見据えて人生の選択肢の一つにしてみてはいかがでしょうか。
もっと有益な情報を得たい医師・歯科医師の方へ
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回の記事はいかがでしたか?
この記事が先生にとって有益なものとなれば嬉しいです。
実はこの記事の内容を書くのに多くの時間と労力を要しました。
なぜなら、世の中には医師・歯科医師に特化した情報サイトが存在しなかった為です。
そのため、有益な情報を得るために
税理士、弁護士、不動産業者、保険業者、プライベートバンカーなど
あらゆるスペシャリストと実際に会い、教えてもらい、彼らのアドバイスのもと自分で行動しました。
このような経験を経て、
日常業務だけでもハードな医師・歯科医師がこれらの情報を自分1人で手に入れるのはかなり無理があると感じたんですよね。
医師・歯科医師にとって必要な情報を素早く得られ、医師・歯科医師同士で気楽に情報交換できる
そういう組織があったらどんなに良いことか…と考えていましたが、世の中に存在する医師・歯科医師向けのサイトは、結局何かを売る目的で作られているものばかりでウンザリしていました。
そこで、ないならば自分で理想の組織を作ろう!と、
医師・歯科医師限定の勉強コミュニティ
【ドクターズドクタークラブ(通称、DDC)】
を2019年に創立しました。
現在、設立後4年近くが経過し、無料会員数は3,000人を超えています。
まずは、「DDC」がどんな組織かイメージを付けてもらうために漫画を作成しました。
興味のある方は、ぜひ以下をご覧ください!
この記事の監修医師
犬飼 遼(放射線診断専門医 / 一般内科医 / 産業医)
【経歴】
2011年自治医科大学卒業、医師免許取得。
専門領域は放射線診断学およびIVRであり、放射線診断専門医免許を持つ。
株式会社やクリニックなど複数事業の経験あり。
医療ベンチャーとしてテレビCMを放送した経験あり。
現在、県や市などの行政と提携して事業展開中。
起業実績一覧 |
---|
・クリニック事業 :2019年、2020年にクリニック2つを立ち上げ、現在は事業承継済み。 ・遠隔画像診断事業 :2021年に売却 ・医療訴訟コンサル事業 :2021年に事業継承 ・有料職業紹介事業 :2022年に売却 ・医療相談事業 :テレビ取材・新聞掲載多数。テレビCM放送経験あり。現在、行政と提携して事業展開中。 |